第3章 美術作家、植田志保

 

(第2章 オッチャンと志保さん。のつづきです)

 

T:ではここからは一問一答のような感じで聞いてみますね。好きなというか、目標にしている人とかっていますか?

 

U:あまり言いたくないけど。ピナ・バウシュです。

 

T:ピナ・バウシュ? 知らなくてごめんなさい。

 

U:舞踏家の方です。ドイツのコンテンポラリーのダンサー。talk to herっていう映画に出ています。

 

T:彼女のどこに惹かれますか?

 

U:厳格なところ。追求するっていう姿が何にもおもねず、信じたことを生涯やりつくす生き方。

 

T:植田さんはずっと水彩画を描いてきていますよね。どうしていろいろある中で表現方法が水彩画なんですか?

 

U:水が好きだから。かつ人間の体ってほとんど水でできているので、水は本当を映してくれる感じがあって、信頼できる。中と外が響き合う感じもあって、水が好きなんです。

 

T:素材として信頼できるっていう感覚自体がすごいですね。私たちからすると、水って垂れたり、逆に不安定で、交わったり濁ったり透けたりするし。その水に信頼があるっていうのが。

 

 

U:生きるってそういうことじゃないですか。固まったりしない。裏切られたり、蠢いたりして、全然自分でどうにかしようとしてどうにかなるものばかりではない。そういう揺らぎみたいなものが生きることとすごく通じるし、似ている。

 

T:人が育っていく中で水彩画って一番親しみやすい画材だと思うんだけど、そこから素材として信頼できるまでには時間がかかりました?

 

U:全然。水彩は達成がないし、それ以外には思いつかなかった。考えたらずっと水彩だった。ずっと呼吸みたいに一緒にいられる。

 

T:面白い! その感覚が色が生きているとか、そういう感覚とも共通しているのかな。すべての物が平等に見えるって言ってましたね。人間だからどうとか、カエルだからどうとかではなくて、全部が自分と同じように見える。

 

U:はい。

 

T;だから色も同じように平等にあって。

 

U:境い目がない。

 

T:物だから雑にしていいとか、そういう感覚がそもそもないって言ってたんだ。

 

U:等しくある感じです。

 

T:そうするとたくさんの素材の中で水が一番仲良しなんですね。

 

U:比べなかった。素材として選ぼうという感じでもないし。

 

T:友だちみたいな感じかな。

 

U:はい。戻れるところ。

 

T:なるほど。次の質問にいきます。絵を描くときに、インスピレーションのもととなるものは?

 

U:すべてのもの。

 

T:見えたもの、見えないもの、すべて?

 

U:その違いもよくわからない。

 

T:感受するもの、自分の中にあるもの、すべてってことだね。

 

U:イメージできるものはすべて。出す出さないは出していいという許可が自分の中で出たかどうか。

 

T:見える見えないでいくと、記憶とかもそういうことだよね。体験した時は見えてたかもしれないけど、記憶は今現在目の前に見えるものではない。

 

U:そう。確かな感覚。インスピレーションするのは自由。それを許可するかどうか。

 

T:私たち一般の人がわからないのが、その絵を描くときの感覚なんですが、どんな感じで描いてるんでしょう。どういう気持ちで描くんだろう。楽しい気持ちで描こうとか?

 

Uそれは一点一点枚気持ちが違う。そこにいる色と向き合って、対話しながらですかね。

 

T:これは本質的な話じゃないかもしれないんですが、制作って感じじゃないとすると、もしこの絵を3日で仕上げなきゃいけないという状況で、集中できないときでも描かないといけないときもありますよね? 気持ちのON、OFFとかはどうしてますか?

 

U:集中できないってあまりない。集中するって言ったら集中する。

 

T:そうなんだ。そういうスイッチは、入りやすいんですね。

 

U:スイッチ?

 

T:例えば小説家さんとかが文章を書くときに、余計なものに気をとられたりしないように、専用の場所を作って小説を書いたりしますよね。それでスイッチを入れて、朝からパソコンに向かうとか……。

 

U:それに向けて歩幅を合わせている感じかな。作家さんが作業場に行って、スイッチを入れる……?

 

T:そう、仕事モードとか。ON、OFFとか。ONにする方法ってありますか?

 

U:ONにする方法?

 

T:うーん、例えば午前中は仕事の時間ですとか。志保さんがよく食べるけど、例えばかりん糖を食べると集中できるとか。

 

U:物理的なもの?

 

T:うん、感覚的なものでもいいんですが。

 

U:いつも全開じゃないですかね。

 

T:そっか。絵を描いてるときがふつうで、それ以外が人と話したり事務作業をしたり、人間らしく過ごす時間みたいな感じですか?

 

U:絵を描いてるときが本拠地。それ以外の時間が集中。外出したりするときの方がよほど、「よし、いくぞ!」感がありますね。

 

T:描いてるときが自然なんですね。

 

U:だからこの前の豊島区の記者会見の前は、描かないようにしていました。絵を描くことで誤魔化さないで、言語で伝えるぞって。絵を描いてると、片言のことばになってしまうので。記者会見場にパレット持っていくわけにもいかなかったし。

 

T:会話していて気づいたのは、仕事に関するONとOFFの定義自体もあまり意味がないですね(笑)。

 

U:小説家の方もOFFのときだけに何かを吸い上げて書いてるわけではなくて、どっかでONにしていると思いますよ。

 

T:なるほど。小説家でもスイッチの入れ方、入り方が植田さんタイプもいるかもしれないね。書くときがふつうで、社交するときはスイッチを入れる、スイッチON!みたいな。

 

U:私、スイッチだいぶ入れないと社交できないですよ。エッセイとか書かれる方はそうなんじゃないのかなと。

 

T:生活の中に絵を描くことが入ってるんですね。

 

U:どっちが先発かですよね。絵を描きに行く人、作家になりに行く人はスイッチをいれるのかな。

 

T:そうか! 植田さんは画家になろうと思ったことがないと言ってましたね。

 

U:なろうって思ったことがない。そういう島に到着したみたいな感じ。あれ、ここどこ、周りのこと知らなきゃ、みたいな。

 

T:面白いね。この前、ある人に聞いたんだけど、知識と教養の違いに似てるかも。知識は役に立つもの、教養はその人の人間性を高める純粋な知的欲求によって拾い集めてきたもの。役に立つ立たないで仕分けられないものが教養で、知識は役に立つって決まってるもの。画家になる、小説家になろう、医者になろう、という行為は、どちらかというと知識に入る。

 

U:必要な装備をすること。

 

T:そうそう。だけど教養から立っていって仕事になった人は、何のためにこれがあって、何の役に立ってるかわからないっていうところに立っているのかもしれない……。

 

U:素晴らしい!

 

 

T:まったくふつうと感覚が違う。質問で一括りにできない志保さんがいる(笑)。面白いですね。次の質問に行きましょう。この1年志保さんのそばにいて、この1年でも作品の変化を感じているけど、植田さん自身はどう捉えていますか?

 

U:変化。できないことをやりたいと思うタイプなので。できたことをずっとできて楽しいって思えるかっていうと、あまり思えない。自分が出来ていないこととか、達成できてないことがちょっとでもわかれば、そこに向かっていく。もう出来たことは興味がない。

 

T:出来ないことをやりたい?

 

U:そうですね。やはり、おかげさまということで生業になっている。自分の身が千切れるくらい全力全身でいることの方が面白いと思う。そういう中で作品を作った方が愛しいから。もう撫で撫でして作る作品に自分が愛しさを覚えられなかったら、作品にもちょっと悪いというか。上から目線みたいじゃないですか、「作ったったよー」みたいな(笑)。

 

T:「作ったったよー」(笑)。

 

U:そういう出来るという瞬間もあるんですよ。

 

T:ちょちょいのちょい、みたいな。

 

U:そう。

 

T:出来るようになるとそうなる。

 

U:だから制作のときには気をつけてる。自分に甘んじないように。だから常に反省が伴う。毎日、反省会。何をしてるかって言ったら、毎日反省ですね。

 

T:毎日、自問自答してるんですね。

 

U:毎日というか、毎瞬間みたいな。瞬間瞬間で。直感で生きてきたというタイプではあるけれど、それでしかないなと。与えられたことをそのままやったら、何かのときにそのせいにしちゃう。それが物でも人でも。自分が感じたから考え抜いたから、これ!っていう自分の中の納得以上のものはないんじゃないかなと。そのためには瞬間瞬間自問自答するしかない。それ以外の方法が見当たらない。あるなら教えてほしい!(笑)。

 

T:(笑)。次の質問にいきます。誰もが志保さんに聞きたい質問かと思いますが、好きな色はありますか?

 

U:好きな色……。嘘がない色! 嘘なき色。

 

T:嘘がない色ってどんな色?

 

U:肌でわかる色。ちゃんと肌を通った色。肌にくる色。

 

T:それはわれわれに見えている色?

 

U:あると思いますよ。意味のある色かどうか。本質のある色かどうか。この世界をどう見てるかによるかも。

 

T:じゃあ、ごめんね。ゲスな質問ですけど、例えばピンクとか、青とか、そういうので好きな色ってある?

 

U:そんな一言で言い表せたら、わざわざこんなめんどくさい活動してないのかな。じゃあ、ピンクですって言ったら、それで終わりの話じゃないですか(笑)。別に描かなくてもいい(笑)。

 

T:正解!(笑) たしかに!

 

U:一言では言い表せないような中間色の膨らみにすごく魅力と可能性を感じているから描いている。それを言葉だったり、作品にして、表現できれば。

 

T:なるほど、ちょっと見えてきた。そこに対する情熱が消えないんですね。その先端、宇宙のどこまで人間が行けるかっていうチャレンジに似ている。どこまで本質的な色に迫れるかなんだね。あくなき探究心。

 

U:それをどう世の中と結ぼれながら……。

 

T:結ぼれ! 出ました!(笑)

 

U:(笑)。今なんかはほんとに自分の色の世界から出て、結ぼれてどこまで行けるかって感じなので。純粋に自分を磨いていくことはもちろんなんですが、そことの出会いとか行き先っていうものを自分で見つめながら生きていきたいって思ってます。

 

T:そうなんだね。次の質問はちょっと現実的な話ですが、池袋で今度ウイロードの再生に挑戦するんですよね。

 

U:はい。

 

T:どういう経緯で、77mもある地下道に植田さんが絵を描くことになったんですか。

 

U:豊島区からウイロードの再生の政策のご依頼をいただき、ウイロードに行ってみたときに、そこで場所が持つ喜怒哀楽、陰陽混合するわななくものを感じたんです。豊島区が2019年の東アジア文化都市に決定したこともあり、同時に文化の側面を捉えることにもなり、人の日常の精神的な営みすべてを文化だと思ったので、自分が今後何を遺せるかを、自分が何ができるかを考えたら、何を考え、何を愛しく考えてきたかということに尽きるという思いに至りました。私の場合は、やはり「色のすること」という描画を含め、色から学んできたすべてを使って制作したいと思った時に、直接公開制作で描画を行うことが根源的な再生ということに繋がるのではないかと思い、77mある空間に描くのはどうかとご提案させていただきました。

 

T:植田さんが公開制作をしようと提案したんだ。

 

U:私が出来ることはこういうことですという形で提案したんです。そしたら豊島区さんも賛同してくださって。

 

T:なるほど。ウイロードの公開制作に向けての意気込みは?

 

U:いつでも精神がどん底のときのことを思うんです。いつも華やかで明るいものを描いてるように思われるけれど、自分が本当に小さなときに何も通じなくて孤独だったこととか、それに惑わされて不安で不安で仕方なかったこととか。そのテンションで、すごく低いところに惑わされて、もしかしたら今すぐにでも死んでしまいたいと思っている人に届くような作品を作りたいなって思いてます。どの作品でもそう思うんですが、より思いました。不安なことから、底辺の気持ちというか、そういうものが届いて欲しい。そういう気持ちがあったこと、自分の中の引っ張られ感が拭えない。ただ明るく成すため、羽ばたくためじゃなくて、底辺的な面はいつもある。

 

T:いつも孤独な感じがあるんですか?

 

U:孤独というか。手放しで楽しめないというのはあって、ぐるっと回ったときにそこにいたという気持ち忘れたくない。忘れられない。そういう鬼気迫る感じが自分の中に宿されている。

 

T:ふむ。ではあと質問、2つ。美術作家になっていなかったら、何になっていました?

 

U:美術作家になれてるのかな。うーん……。

 

T:自分の中のノックがなければ、さっき言ってたアナウンサーになっていたかな?

 

U:なってたかも。でもそしたら、きっとどっかで崩壊してたのかも?

 

T:(笑)。成立してなかった?

 

U:精神とのバランスがとれなくて? 歌のお姉さんとか、何かを子供たちと一緒に作るお姉さんとか。

 

T:絵本作家にもなっていたかもしれないですね。

 

U:でもそういうのが総合してできるから美術作家をやっているんだと思う。自分の中でやりたいことが溢れていたから、周りの人が美術作家とつけてくれたんだと思う。まだ、不確か。自分が言葉に引っ張られるところがあるので。ウイロードも画家がやりますというよりも、美術作家がやりますという方が意気揚々とできて可能性があるというか。本当は出来ちゃうことをカテゴライズされて抑えちゃうというのがある。

 

T:ウイロードも画家としてしか活動してなかったら、こういう風にしてみましょうという提案もできなかったかもね。

 

U:そうだし、自分のやってきたことは何にもおもねず「色のすること」だっていうのがあったので、これだけ境目のない世の中だからやってもいいんじゃないかって。うーん、美術作家以外……。でも今もいろんな仕事ができてる。In a Flowerscapeはお花屋さんのような側面もあります。

 

T:では最後の質問です。絵以外の特技があったら教えてください。

 

U:軟体!

 

T:軟体?

 

U:はい。小さい時から体は柔らかくて、いつも頭と足を輪っかにしてくっつけて寝てました。

 

T:へー。

 

U:大人になったときに、その寝てるところを友だちにシェアしたら、ぎゃーって叫ばれた。キモい!って。体は柔らかいんです。あと得意なのは水泳かな。

 

T:今も泳いでるの?

 

U:はい。自分を取り戻しに行ってます!

 

T:たしかに! 水だもんね。

 

 

(あとがき)

今回、植田志保さんに初めてインタビューさせていただきました。たくさん興味深いお話を聞くことができ、植田さんの生い立ちや、家族のこと、色の原点を知ることができ、貴重な時間になりました。

また機会がありましたら、新たな植田志保さんを探すべく、インタビューにチャレンジしてみたいと思います。

最後までお読みくださり、誠にありがとうございました。

TOMOWA